珍しくコピーライターらしい記事を紹介。長文の分析なので注意。
自殺者数が14年連続3万人を超えるなか、政府が毎年3月に行う自殺対策強化月間のキャッチフレーズが、今年度は「あなたもGKB47宣言!」に決まった。23日に開かれた内閣府の自殺対策推進会議で報告され、委員から「自殺対策としては違和感がある」と疑問の声が上がった。(以下略)
記事引用:産経新聞様 2012.1.23えーと、実物(ポスター)を見てないけどまず、「GKB」ってのは「ゲートキーパーベーシック」のことで悩んでいる人に気づいて声をかけ、支援につなげる存在のこと。んで「47」ってのは47都道府県のこと。国民に広く取り組みが広がることをイメージしたわけですな。
んで、委員会の人たちは「AKB48にあやかろうとしたのはわかるけど、自殺対策は継続的に、地道に取り組むもの。キャッチフレーズは地味でも普遍性や本質を表すのが大事」とか、「もっとあたたかな、現状を反映した言葉のほうが良いのではないか。似たようなキャンペーンはほかにもあり、埋没する恐れもある」とか仰ってますな。
ネットでも「GKBってなんだ?ゴキブリ?ゴキブリみたいにしぶとく生きろってこと?」とか、「ゲートキーパーの意味がわからん」など評判はいまいち。
ふむー、まあ確かにその通りですわな。正直、GKB47ってのは意味分からんよなー。AKBという流行に安易に乗ろうとする姿勢も美しくはないわなー。評判が悪いのもわかる気がするなー、と。
だが、しかし! 広告屋の猫侍としては、この件、実は「わりと成功じゃね?」とも思っています。以下、このキャンペーンが成功した部分の分析ですよー。
普通、こういうキャンペーンには「達成すべき目標」ってのが掲げられているのね。この自殺防止対策の目標は究極的には「自殺者をなくす」ってことなんだろうけど、まさかポスターやらCMやらをうったくらいで自殺者がなくなるなんて非現実的なことは誰も考えてないわな。広告は魔法じゃない。
キャンペーンの目的はもう少し現実的で、「自殺者の実態を知らしめる」「ゲートキーパーの認知」「自殺を考える人の周りの人にフォローをお願いする」の3点くらいだと思うのよ。(実際のオリエンを聞いてないから想像だけど)で、この「GKB47」って微妙なキャッチフレーズのおかげでこのキャンペーンは新聞記事になったわけです。で結果、「毎年自殺者が3万人も超えている」という事実を国民は知り、「ゲートキーパー」なる用語の意味も知ることができたと。「自殺を考える人の周りの人にフォローをお願いする」というお題はクリアできてないかもしれないけど、一応、広告としての役割は果たしてるんです。
んじゃ次に過去の「自殺防止対策のキャッチフレーズ」を分析してみる。
まずは2009年のキャンペーン。(画像リンクあり)

「あなたの問題解決を支援するための相談窓口が全国各地にあります」
とりあえずポスターの目標は、全国にある相談窓口に認知ね。これも一応、目的は果たしてる。だけどこのポスターを見て、自殺しようかと悩んでる人のどのくらいが実際に電話したのかな? 以前も
ブログで自殺者の心理について書いたけど(過去記事リンク)、自殺を考える人って他人に相談とかあまり考えないと思うのよ。もちろん、「
いのちの電話(リンクあり)」とか素晴らしい活動もあってそれらが実績を上げているのも事実なんだけど、基本自殺者ってのは孤独で追いつめられた存在だから死を回避するため自発的に動くってことはあまりないかと思うのです。にしてもこのデザインのポスターが貼ってあって、みんな目をとめると思う?
次に2010年のキャンペーン。(画像リンクあり)

「大切な人の悩みに気づいてください。」

「ひとりで悩むより、まず相談を。」
先に言うように「自殺を考える人へのアピール」ってのはそれなりに重要なんだけど、それ以上に周囲にいる人、特に家族や仕事仲間が気づいてあげることが重要だという一歩進んだ考えを元にポスターが作られてるのがわかる。ポスターも、自殺を考える人の周りの人用と自殺を考えている当人用の二種類用意されています。でも、「考える人」をモチーフにしたこのポスター、…逆に欝になりそうな暗さがありますよね…。
で、2011年、去年のキャンペーン。(画像リンクあり)

「つながるわ、ささえるわ」
絆の象徴である「輪(わ)」で韻を踏んだキャッチコピー。サブキャッチで「まずは、声をかけあうことから始めてみませんか」で、自殺を考えている人の周囲の人間へ啓蒙しています。去年のキャラクターが再登場してます。さすがに真面目に暗いポスターでは逆効果だと思ったのでしょう。でも、このポスターで「自殺防止」だって一目見てわかるかね?
ちなみに、このキャンペーンとは別に、
「お父さん、眠れてる?」というキャンペーンもありましたね(リンクあり)。テレビCMも結構流れていたから覚えている人も多いんじゃないかな。「自殺を考えそうな人の兆候」である「睡眠」にスポットを当てて、より具体的に自殺防止を訴えているわけです。
このように自殺防止キャンペーンは段階を踏んで進化いるのがわかります。
でも、哀しいかな、このキャンペーン、広告としてもっとも重要なことが抜けているのね。
それは
「見てもらう」ってこと。
どんなに素晴らしいキャンペーンであっても、それが人の目に触れなければ、人の記憶に残らなければ、意味が無いんです。2009年や2010年、2011年のポスターを一体どのくらいの人が見て、記憶に残ってるんだろうね。2011年の「お父さん、眠れてる?」はテレビCMというお金をかけたキャンペーンのおかげでかなり認知は高まったはずだけど、それでも有名タレントが出ているわけでも面白い内容でもないので多くの人の記憶には残らなかったと思う。
つまりね、先の委員会の人が言っていた
「キャッチフレーズは地味でも普遍性や本質を表すのが大事」なんてのは質実剛健が尊ばれる日本人的な発想で、広告的な手法としては間違い。
広告は「見られてナンボ、記憶されてナンボ」なのよ。別の委員の
「もっとあたたかな、現状を反映した言葉のほうが良いのではないか」ってのも、「あたたかな表現」ってのはそのまま「ヌルい表現」って意味でもあって、お役人や有識者様が納得するような表現は同時に誰の記憶にも残らない表現、素通りされる表現にもなりかねないわけです。
んで結論として、この「GKB47」ってのは不本意なカタチであろうと話題になったことで結果として目的を果たしている広告だと言えるんじゃないかと思った次第です。
最後に。どんなに優れた広告でも、どんなに人々に認知される広告でも、それが自殺者を思いとどまらせることなんて基本無理な話です。「自殺防止キャンペーン」なんてのは所詮、対処療法に過ぎない。当たり前な話だけど、本気で自殺者を減らしたいのなら、政府も国民も、もっとストレスのない、生きやすい世の中にするにはどうするかを考えるべきだと思います。「自殺者3万人」という話を聞いても「へー、そんなに多いの?」レベルの危機感のなさに猫侍は少し恐怖を覚えてしまいます。
だって、キミと同じ人間が、キミと同じ国に住んでる隣人が、キミにも思い当たるような悩みを抱え、キミと同じたった一つの命を、自ら絶ってるんだぜ?自殺した人間が、“本気で”死にたいと思っているわけないじゃないか。それでも自ら命を絶ってるんだぜ。怖いのに、痛いのに。その心の闇、その恐ろしさ、その不条理をもっと真剣に考えて欲しいと、猫侍は心から思うのです。内閣府 自殺対策
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/summary/event.html追伸:ああ、あれだ奈良のゆるキャラの「せんとくん」騒動と似てるね。キモいキャラだったせんとくんが話題になって始め大不評だったのがいつの間にかに定着して奈良の知名度を向上させたって話と似てる。
追伸:商業広告と役所のキャンペーンは違うので注意。商業広告でどんなにインパクトがあろうと、人を不快にして企業や商品イメージを壊してしまっては元も子もないからね。
追伸:今回のキャンペーンは「月間」だったけど、「自殺予防週間」ってのも別にあるので興味のある方は調べてみてください。
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