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【フィクション】 この国の終わりの始まり。

ザザザッ…こちらは--○○区役所ーー防災センターですーー

11月のある夜、私は近所の防災スピーカーから聞こえてきた硬質な男性の声で目が覚めた。枕元の時計は午前4時を回っている。

本日ーー午前4時40分ーー首相官邸からーー国民にーー

もっとよく放送を聞こうと部屋の窓を開けようとして、その手を止める。
慌てて、テレビを付ける。

なお、緊急ー放送はーーアナログテレビーーラジオでもーーお聞きになれーー

NHKではアナウンサーが緊張した面持ちで、画面の外にいるスタッフから原稿を受け取る様子が映っている。スタッフの怒号がマイクに拾われている。

「えー、皆様、落ち着いてください。現在、時刻は4時20分、…21分になりました。あと20分ほどで首相官邸より緊急記者会見が行われるとの情報が入りました。午前4時40分に首相官邸より緊急記者会見が行われるとの情報が入りました。詳しい内容が入り次第、お伝えいたしますので、そのままテレビをつけてお待ちください。」

なんとなく予想はついた。この緊急記者会見は、最悪の事態を発表し、日本にとって最悪の時代の始まりを告げるものになる。いや、日本の終わりの始まりを告げる声となるのか。

私は風呂場に行き、ざっと風呂釜を洗うと水を溜め始める。次にガムテープを使って、部屋の窓の隙間、玄関の隙間に目張りをした。

…隣の部屋の住民も動き出している気配を感じる。窓の目張りをしながら外を見てみると、白み始めた空の下、いくつもの部屋の明かりが見えた。近くの道路には父親と母親がダンボールを抱えて、パジャマ姿の子どもを車に乗せているのが見えた。耳を澄ますと別の声も聞こえてくる。

コンビニは!? 閉まってる!? どうすんだよ!!

パソコンをつけて、ネット掲示板に繋ごうとするが、繋がらない。どうやらみんな情報を求めて同じことをしているらしい。検索に「福島第一原発 ライブカメラ」と入力するもリンク先は、「503」表示が出るだけだ。そう、みんな想像はしていたのだ。こんな日が来ることを。

「時刻は4時40分を回りました。映像は…首相官邸ですね、記者会見はまだの…あ、枝野官房長官が部屋に入りました。菅総理もその後ろから入ってきました。」

報道陣のフラッシュがテレビ画面を白く染め、耳障りなシャッター音がこだまする。そして、神妙な面持ちの菅総理が、国旗に一礼し、壇上に上がる。

「えーー、こ、国民の皆様に大変重要な、大変重要なお話がございます。緊急を要する事態でしたので深夜ではありましたが、各市町村の防災無線を利用し、テレビやラジオ等の視聴のお願いを指示させていただきました。」

そんな話はいい。早く「大変重要な」話をしてくれ。

「本日、午前3時20分頃、現在、復旧作業が続けられております福島第一原発3号機にて、小規模な爆発事故が発生したとの報告を受けました。」

…3号機…プルトニウム…MOX燃料…。

「現場の作業員に負傷者が出ているという報告も受けておりますが、現在、全員の一時撤収が行われております。」

…全員撤収?それってまさか…。

「総理、全員撤収って、それじゃあ誰が原発の制御を…」

会見場の独りの記者が声を上げると、会場は怒号に満ちた。異様な光景だ。

「み、みなさん落ち着いて聞いてください。落ち着いて聞いてください。まだ発表は途中です!!」

官房長官の声が響く。ガシャガシャとパイプ椅子の蹴り倒される音とともに。

「3号機の爆発は水蒸気爆発と見られており…」

記者の怒号が響く。
「水蒸気爆発って放射能は、放射能はどうなんですか!?」


「水蒸気爆発と見られており、原子力委員会からは、…幾ばくかの放射性物質が周辺地域に降下する可能性が指摘されております。そ、その範囲は、…」

この発表の時間が嘘でないのなら、午前3時20分…その6時間後だから午前9時過ぎか…。

「放射性物質の降下範囲は、大部分は太平洋側に流れると予想されますが…」


この期に及んで希望的観測…。

「その一部は、北からの風に流され、福島県、宮城県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県…」

一拍おいて総理は言った。

「東京都の…全域、静岡県、山梨県、群馬県、山形県の一部地域に」

どよめきが会場を埋める。

「現在、空間線量を各地域で測っておりますが、福島県の一部地域を除き、比較的安定した数値を…」

どこまで政府の発表する数字を信じればいいんだ…。

「ただし、これから風の流れによって先程の地域に、比較的高い数字、えー、1時間あたり15マイクロシーベルトから120マイクロシーベルトの放射線量を観測する可能性が…」

「人体には影響があるんですか!!」

若い女性記者が叫んだ。

「えー、人体にすぐに影響がある数字だとは思いませんが…」

「それは“すぐ”じゃなくて、いずれは影響が…!!」

女性記者が総理の言葉を遮るように言葉を発する。

「現在の予想では、一時的な線量の増加であり、長期的な、…被曝でなければ人体に大きな影響は…」

被曝、という言葉を言いよどむ総理は本当に正直者だ。愚かなほどに。

「政府としては、該当地域での一時的な自宅待機を要望します。政府は国民の健康を守るという立場から、当該地域にお住まいの方は、今日、明日と部屋から出ずに待機していただきたく…」

バタン!隣の家から車の荷台を閉める音が聞こえ、程なくエンジン音。さっきの親子とは別の家族が避難したのか。

「なお、該当地域からの移動は、極力避けてください。道路の渋滞が予想され…」

いつの間にか、総理は壇上から姿を消し、官房長官が話を続けていた。

「関東地方への放射性物質の降下は、事故発生から4時間から8時間後と予想され…」

つまり、もう、手遅れってことだな。3000万人以上の人間が西を目指してわずか8時間で移動することなど不可能だからだ。

「ご自宅の窓を締め、可能であればガムテープや新聞紙などを使って、隙間に目張りを…」

政府のいう毎時120マイクロシーベルトというのが、どのくらいの線量なのかは、具体的にはわからなかったが、たぶん、一時的ならば問題ないのだろう。一時的ならば。でも政府の言う“一時的な”時間ですべてが収束するとは思えない。そして降り積もる核物質は、MOX燃料の破片なのだ。半減期“わずか”二万四千年、人類史最強の毒物の破片…。万が一、吸い込んだ場合の肺ガンの発症確率は…。

私たちは、籠の鳥の実験動物として関東に居続けることになるのか。

「明日の証券取引は、停止とし…」

カーテンの隙間から朝を感じる。東の空の白さを増し、スズメたちの声が聞こえてきた。

「政府機能の一部を大阪に…」


今日もよく晴れそうだ。いつもの平和な日常の始まりとまったく変わらぬ朝の風景。だけど、そんなのは幻想だった。3月11日のあの日から、この国はすでに狂い始めていた。皆そのことに気づいていたはずなのに、気づかないふりをしていたに過ぎなかった。生活のために会社に行き、将来のために学校に行っていた。すぐ側に破滅の足音が聞こえていたのに。目に見えない悪魔が近づいていたのに。まったくよく訓練された、国民だ。自分を含めて。

「1号機、2号機、4号機については現在のところ安定しており…」
「でも、作業員はみんな避難しちゃったんでしょ!?」
「それにつきましては東電から説明していただ…」

私は台所の換気扇を即席のダンボール蓋で目張りし、流しの下にある備蓄食料を見る。…一日一食で三週間から一ヵ月ってところか?問題は水だなぁ。というか、この一ヶ月を生き延びたところで次の一ヵ月は、次の一年は、次の三年は、次の・・・。とりあえず今日と明日は強制的にお休みだ。ゆっくりと考えよう、いろいろなことを。私は窓から空を見る。そして意を決して窓を開けた。乾いた冷たい風が頬を撫でながら部屋に流れこむ。心地良い大気。私は思いっきり大きく、最後の深呼吸をした。目に見えない悪魔に冒される前の最後の大気を。さあ、窓を閉め、テレビを消し、布団を被り、再び夢のなかに落ちていこう。そう、起きたらすべてが夢であることを願って。
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うさぎに奇形がでました。

春の季節さんが、又、放射能や子供たちにとって、とても大切な情報を提供しています。
非常にショッキングな映像も、又、ありますが、子供達の為に拡散をお願いいたします。


http://blogs.yahoo.co.jp/harunoashioto2010/12383545.html

専門家の分析が待たれますね。

みさおさん、コメントありがとうございます。耳なし兎ちゃん、もしこれが福島の放射線が原因なら子どもたちや妊婦さんが心配です。早急に専門家の意見を聞きたいですね。チェルノブイリの子どもたちの映像は衝撃的です。子どもは放射線の感受性が大人の数倍あると言われている中で、政府が定めた子どもの制限範囲である20mSv/年は、やはり納得できません。政府はメンツにこだわる暇があったら、強制的にでも子どもや妊婦さんの疎開を考えるべきだと思っています。
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猫をこよなく愛する天才こぴーらいたーが、トマトを育てたり、本を読んだり、自分でもよくわからない自身を分析したりするよ! で、現在、無職になっちゃった!? 絶賛再就職活動中ですわ!!

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